僕が音楽を大好きになったきっかけはビートルズ。だから今でもポップなものは大好きなのだけれど、キング・クリムゾンやピンク・フロイドに代表される「プログレ(プログレッシュヴ・ロック)」が持つ難解さもとても好きなので、それをひとつの曲の中で表現してみようと思うと僕にとってはかなりややっこしいことになる。
プログレは形而上的な感性を心地よく刺激し、自己の中の意識の広がりというものを高めてくれるので、知的な快楽を大いに得ることが出来るのだけれども、それはまた一般的には現実逃避という方向へと向わせるかのようなイメージに捉えられがちなようだ。実際に違法なドラッグなどとの併用によってそのトリップ感を増幅する人は多いのだろうと思う。しかし最高のトリップをしたいのであればドラッグはいらない。というよりもドラッグによるトリップはただのマイナスにしかならないと僕は思っている。目や耳などの五感から得る情報と自己の精神から出でるイメージだけで充分に素敵なトリップは出来るし、そうしたものはドラッグとは違い、直接的に体への悪影響を及ぼすようなことはない。世の中にはトリップ感ばかりに取り憑かれた挙句、ドラッグばかりに頼り、その世界から抜け出せなくなってしまう人が大勢いるけれども、そういう人々を僕は大変残念に思ってしまう。世の中には音楽や絵画や瞑想など害無くトリップする方法はたくさんあるのに・・・・。きっとこの世界にあるそういう素敵なものの味わい方をよく知らずに生きてきてしまったのだろうと思う。
僕はアーティストだから想像力が「命」なのだけれども、想像力というものは何もアーティストだけに必要なものではないと思っている。誰にでも生きてゆく上で、また人生を楽しむ上で想像力は無くてはならないものだし、もしそれがひとかけらもないとすれば、日々の中での感動ということが起こるはずもない。言い方を変えれば「感動した」ということは自分の中に大いなる想像力があるということだ。
“intercept”by megu.megu
想像力の材料にするものは音楽や絵画などという「芸術作品」と呼ばれるものでなくても良いはずだ。大手旅行会社の企画したパック旅行でも誰かの作ったテレビゲームであっても良いのだと僕は思う。そこで「美しい」とか「楽しい」とか感じたことが何よりも大切なのだ。それはその人の感性そのものであるし、容易に創造性とも結びついてゆく。その為に必要なものはちょっとしたノウハウと創意工夫だけだ。想像力や創造性の源は自己の精神であり、その原動力となるのは自由な発想。小さな閃きがあればどんどんとそれは育ち、膨れ上がってゆく。誰にでもアーティストになれる可能性があるわけというわけだ。あとはどれだけそれが好きで、どれだけそれに時間が割けるかということで生業として関わってゆくのか、または趣味として関わってゆくのかということが自分の中で決まる。
“chair(t&w)”by akitoshi.ito
想像力は人を、またその人の人生そのものを豊かにする。そういった意味においても「自分を幸せにするのは自分自身」という言葉は当て嵌まると思う。想像力を得る為に用いるものはやはり誰かの想像力が一番いい。そうしたコミュニケーションの繋がりというものが「豊かな連鎖」を生み出してゆく。ドラッグ問題など社会における法的なシステムの構築と整備は必要なことだけれども、一人ひとりの心の豊かさをいかに高め、良い連鎖を築いてゆくかということはそのこと以上に大切なことだと僕は考えている。その為にもまずは世に溢れている感動たちを知り、自己の中の宇宙を少しでも感じてほしいと願っています。