17世紀のオランダ国民の間では、短い言葉と絵で教訓を表した「エンブレム」というものが流行していたそうです。人々の日常生活の様子が描かれた当時の風俗画は、そこに秘められた「エンブレム」の意味を紐解くことが鑑賞の楽しみ方のひとつでした。
今回の絵画展の中心に存在していたのは、フェルメールの描いた「牛乳を注ぐ女」という作品。緻密な技法を用いながら何度も書き直したと云われるその表現力は流石の一語です。しかし「牛乳を注ぐ女」という絵が優れていると僕が感じるのは、何よりもそこに注がれている“心”。フェルメールが写した、ひたむきに働く使用人の姿は、他に展示されていた数多くのオランダ風俗画の中でもひと際輝いていました。献身的に生きる様の美しさを伝えることこそがフェルメールにとっての最高の美だったのかもしれません。
高校時代の僕は、課外のギター部の他に課内のクラブ活動として「社会科研究部民族班」というところで部長を務めておりました。入部のきっかけは「一番楽なクラブ」という噂を耳にしたからでした。実際に活動は夏休みの数日の取材合宿と学園祭に向けての研究発表だけ。その内容的には、農村地域に出向き、村人より民間伝承を収集し、考察を行うというもの。しかしそこでの活動では、現在の僕の活動にも繋がる大切な何かを得られたように感じています。その何かとは、人間の日常生活の中に息衝いている人間の“本来的な願い”であるとか“美意識”といったものだったと思っています。
オランダ風俗画展の帰り道からこの二、三日の間、僕は高校時代から強く意識し始めた自分の中にある“人間に対する興味と欲求”というものが現在に至るまで如何に変化し、育っていったのか、ということについてずっと考えていました。思えば、いろんなことがあったものです。
人間への興味を与えてくれるもの、またその欲求を意識させてくれるものは、実はいろんなところに存在しているわけで、そうしたものに気づくことが人生を限りなく豊かなものに変化させてくれたりします。そしてまたそこから僕自身の音楽というものも生まれてゆくのです。だからもっともっと、心のアンテナの感度を上げておきたい、改めてそんなことを強く感じる今日この頃です。